「なぜかわからないけど心地いい」──それこそが、おもてなしの真髄かもしれません。

Amazing ★★★★★★

ある日のこと、現役ホテルマンのカップルが老舗旅館に宿泊したときの話。チェックインを済ませ、ふたりは客室に案内され、座椅子に腰を下ろして「素敵な部屋だね」としばらくのんびりしていました。ところが、座椅子に目をやった男性は、ある小さな“違和感”に気がついたのです。

それとなく彼女に「なんか気づかない?」と問いかけたものの、彼女は「うーん…特に」と気づきません。仕方なく彼が教えたのは、「座椅子のひじ掛けが同じ側にある」──それも右利きの自分の椅子には右に、左利きの彼女の椅子には左側に。驚いた彼女は、「まさか、旅館がそんなこと気にするわけないでしょう」と笑いましたが、彼が言うには「チェックインのときだよ」と一言。彼女が左手でチェックインシートに記入する姿を見たスタッフが、客室係に連絡し、部屋に入る前に座椅子をひそかに入れ替えた、というわけです。

果たして、これは偶然だったのでしょうか?もしかすると、彼女の言うように偶然かもしれません。しかし、これこそが“おもてなし”の現場における心配りの一例であり、最前線で活躍するプロたちが心の中に抱く「できることなら、ゲストのあらゆる心地よさに応えたい」という気概の表れかもしれません。

実際、彼女はこの「小さな気配り」に感動し、ホスピタリティの奥深さに触れたと言います。日本のおもてなしが世界で称賛されるのは、こうした感動レベルのホスピタリティがあるから。そして、その究極は「気づかないホスピタリティ」にあるのです。気づかれることなく、ただゲストが「なぜか心地よい」と感じる。その環境こそが、真のおもてなしの場なのかもしれません。

おもてなしの真髄は、①ゲストが感動するほどのホスピタリティと、②ゲストが気づかないほど自然なホスピタリティ。この両面があってこそ、日本のホスピタリティは崇高な領域に達しているのです。「何故かわからないけど心地いい」と感じたとき、それはおもてなしが溢れる空間である証かもしれません。

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